日本平夜市は平成27(2016)年9月に日本平が日本夜景遺産に登録されたことをきっかけに、「地域住民・観光客へ日本平の魅力を発信し、本地域の魅力を一層高めること」を目的として始まった夜型のマルシェです。
毎月第4土曜日に開催しているこのイベントは、開催当初は出店2店舗、来場者数50人と本当に小さな取り組みでした。
しかし、毎月回を重ねるごとにどんどん賑やかになり、今では飲食店・雑貨店が60店舗以上立ち並び、音楽ステージや電飾が飾られた賑やかな空間に、夏場は1万人を超える来場者が訪れる一大マルシェとなりました。
そんな日本平夜市を開催した経緯や、どんな仲間とどのような想いで運営しているのかを紹介していきます。
1.日本平の夜のイメージを一新する
日本平は清水港や富士山、駿河湾を一望できる静岡の観光名所として昭和25年には観光地百選日本一となった観光名所でした。
また、そこから見える夜景も魅力で地元のデートスポットとして多くのカップルが訪れる場所となっています。
一方、日本平山頂までのアクセスは急カーブの続く峠道で、夜にはスピードを出す車やバイクの走り屋達が集まる場所となっており、夜の日本平には「暗い」「怖い」「危ない」というイメージも定着していました。
近年、そんな日本平の魅力の再発信に向けて、地元行政である静岡県及び静岡市では日本平のハード整備を行っており、また、日本平に施設を持つ観光事業者の組合である日本平観光組合では、日本夜景遺産への登録に向け尽力しておりました。
そんな中、当時、日本平山頂のお土産屋のマネージャーと地元市役所の職員が、地元有志としても何かできることはないかと考えたときに「日本平の夜に賑わいを創出し、日本平のイメージを一新しよう」と構想したのが「日本平夜市」の始まりです。
POINT
●日本平は観光名所であると同時に、走り屋の聖地でもあった。 ●「日本平のイメージを一新しよう」というのがコンセプト。 |
2、「イベント」から「日常」へ
日本平夜市の運営にあたっては、主に10代から40代の地元有志を中心とした日本平夜市実行委員会が企画・運営をしています。
実行委員会メンバーの職種は様々で、WEBデザイナーや木こり、花市場の競り人や公務員、学生など多種多様なメンバーが自分の休日を使って活動しています。
開催時の参加は、自分が出られる時にできることを!という自主的な関わり方になっており、5人で準備をすることもあれば15人集まることもあります。
さらに今では夜市の取り組みを知った地元高校生が運営スタッフに参加してくれて、当日は10人以上の高校生チームが参加しています。
企画・運営をしていく上で意識していることは、主催者も来場者も肩肘張らずに参加できるようなイベントにすること。
「イベント」ではなく、みんなの「日常」になっていくことを心掛けています。
そんな理由からイベントは毎月開催しています。
もちろん当初は準備や企画、運営等、大変な部分はありましたが、今では毎月第4土曜日に日本平の山頂でみんなに会える。
そんな日常になっている気がします。
毎月継続して実施することで、前述のように地元の高校生や大学生からも関心を持ってもらい若い世代が次々とイベント運営に携わってくれるようになりました。
その輪はどんどん広がって、現在、実行委員会は総勢40人で企画・運営をしています。
POINT
●「イベント」ではなく、「日常」にしていくことを心がけている。 ●必ず毎月第4土曜に開催する。 |
3、誰でもチャレンジできる場所へ
日本平夜市の運営費は、全て出店者の出店手数料で賄っています。
開催当初はメンバーの持ち出しによる運営でしたが、今では出店料から交通誘導員を雇えるまでになってきました。
出店者も毎月20店舗ほどの新規エントリーがあり、毎月約100店舗から約60店舗を選考しています。
選考方法については、日本平夜市の開催趣旨に賛同してくれた地元の出店者を中心に選考しており、誰でもチャレンジ出来る場所にしたいという考えから、将来は店舗を持ちたいという方や、趣味でアクセサリー作りを始めたママさん等、新しいことにチャレンジしてみたい方を積極的に受け入れています。
また、会場にはステージが用意してあり、音楽演奏やパフォーマンスの披露をすることが出来ます。
地元のアーティストや学生、おじさんブラスバンド等様々な方が演奏を披露してくれています。
POINT
●運営費は全て出店手数料から賄う。 ●新たなチャレンジャーを積極的に受け入れるスタンス。 |
4、公共空間をもっとオープンにする
実行委員には数人の市役所職員がいます。
その中には、仕事柄まちづくりには興味と関心があり、また都市行政に携わっていたメンバーがいて、公共空間の利活用などにも業務として携わってきました。
道路や広場、公園を含めた公共空間はみんなのものであって、もっとみんなで使って良いと思っています。
管理する時代から、利活用していく時代へのシフトを何となく感じていました。
日本平は地元民の誰もが知っているような場所ですが、地元民が親しみを持って気軽に遊びに来られるような場所にはなっていなかったように思います。
私たちが夜市を開催している場所は、県有地で普段は観光客の駐車場として使われています。
ここから眺める富士山はとても綺麗で、通り抜ける風は心地よく、気持ちの良い場所です。
もっとこの場所をみんなに知ってほしいし、みんなに使ってほしい。
そんな想いで仲間とはじめた日本平夜市も、回数を重ねるごとにイベント規模が大きくなり、今では共催に「日本平観光組合」、後援に「静岡市」に入っていただき現在の運営体制となっています。
地元有志からボトムアップではじめたこの活動は観光組合や行政に支えられて継続的な開催が可能となっているように感じます。
また、静岡県、静岡市のハード整備によって平成30年11月にオープンした展望施設「日本平夢テラス」の開館時間は、この日本平夜市の開催状況から土曜日のみ開館時間を延長し21時までの開館となりました。
地元のソフト事業と行政のハード事業が連携した好事例ではないでしょうか。
POINT
●公共空間は管理する時代から、利活用していく時代へシフト。 ●現在では「日本平観光組合」が共催、「静岡市」が後援となっている。 |
5、楽しい場所は自分たちで創る
よく出店者の方や来場者の方から『日本平夜市は雰囲気が良い』と言われます。
これは夜市スタッフが、まずは自分たちが一番楽しんで、楽しい場所は自分たちで創るというポジティブな気持ちで活動していることが出店者の方や来場者の方に伝わり、ワクワクの波紋が広がっているのではないかと感じています。
日本平夜市にはお客さんはいません。
夜市に来てくれる方は、「お客さん」ではなく、「来場者」であって、一緒に静岡という「まちを楽しむプレーヤー」だと思っています。
だから私たち日本平夜市スタッフは来場者に対して、過度なおもてなしはしていません。
この空間を一緒に楽しもう。という気持ちで運営しています。
そうすると、来場者の方も自分たちでレジャーシート持ってきて芝生に広げてみたり、階段に座ってみたり最低限のルールの中で、周りに迷惑をかけずに好き好きに楽しんでいる様子です。
きっとそこにはいろんなワクワクがあって、笑顔が溢れている。誰に管理されるわけでもない居心地の良い空間になっているはずです。
このイベントを立ち上げる時に大切にした「自分の立場のせいにしたり、人任せにするのではなく、自分たちのまちは自分たちで創っていきたい。
「楽しい場所は自分たちで創る」という想いに多くの方に賛同してもらい、現在のような大きなイベントになっているのだと思います。
私たちは、これからも日本平夜市からさらにチャレンジの輪が伝播するような空間創りをしていきます。